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大阪高等裁判所 昭和61年(く)92号 決定

少年 S・H(昭42.9.24生)

主文

原決定を取消す。

本件を京都家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告申立の趣意は、少年作成の抗告申立書(補正分を含む)記載のとおりであつて、要するに少年を中等少年院(長期処遇)に送致した原決定の処分が重きに失し著しく不当である、というのである。

そこで記録を調査し、かつ当審における事実取調の結果をもあわせて検討するに、原決定が認定した本件非行は、少年が、1 他1名と共謀し、昭和60年11月末ころ、カー用品店に商品として陳列してあるパーソナル無線機1台(時価4万円相当)を窃取し、2 他2名と共謀し、(1)同年12月28日電気機器販売店軒先からビデオカセツトデツキ1台(ダンボール箱入り、時価13万5千円相当)を、(2)同日電気機器販売店前からビデオカセツトデツキ1台(ダンボール箱入り、時価8万1千円相当)を、それぞれ窃取し、3 (1)同61年1月13日スーパー店自転車置場において、友人A所有の原動機付自転車1台(時価4万円相当)を窃取し、(2)同月29日右A方ガレージにおいて、右原動機付自転車1台を窃取し、(3)同月29日無免許で右原動機付自転車を運転したという、いずれも事案としては比較的犯情軽微な窃盗5件(なお、無線機及びビデオカセツトデツキの窃盗事犯に際し、少年は見張りの役割を果たしているが、各贓品はいずれも共犯者が取得している)及び道路交通法違反の事件であり、本件非行から窺われる犯罪的危険性はさして強度のものとはいえず、少年には一般非行による保護処分歴もない(但し、無免許運転等による講習不処分、交通短期保護観察の交通関係での処分歴がある)こと等にかんがみると、少年の性格、行状、保護環境等に看過し難い問題点が認められるとはいえ、本件非行のゆえに少年を中等少年院(長期処遇)に送致するとした原決定の処分は、重過ぎて著しく不当であるといわざるを得ない。論旨は理由がある。

なお、原決定は、その処遇理由中で「少年は16才ごろから交通非行をくり返していたが、仕事への意欲が持てなかつたところ、不良交友で遊び癖がつき、昨年秋頃から生活態度を乱すこととなつた。殊に本年3月から逮捕直前までは日常的に空巣盗によつて生活を続けるという大きな崩れ方を示している。本件はこのような生活の中で行われた一部であるが、少年の述べる未送致の空巣盗は数十件に及んでおり、従前の交通非行からみれば非行は急激に悪化し、非行性の深さは相当のものと認められる。」と説示して右未送致余罪の存在を要保護性判断の重要な要素としていることが明らかであるところ、一件記録によれば、少年には、昭和61年2月3日から同年5月31日までの間、単独又は共犯1ないし2名と共に、18回にわたつて行つた空巣盗16件、同未遂1件及び居空盗1件(被害合計現金約254万円等)の未送致余罪(昭和61年7月3日○○警察署から参考送付された犯罪行為一覧表写による)のあることが窺われる(但し、証拠は少年の概括的自供以外にはない)とともに、本件審判に際して右余罪につき概括的にではあるが少年に事実をただし弁解の機会を与えていることが認められるものの、右の18件の余罪以外の数十件に達するという余罪の存否、内容等は未だ必ずしも十分明らかではない。しかも、右空巣盗が日常的に反復されていた時期(昭和61年3月以降)と、本件各非行の時期(昭和60年11月末ころから、同61年1月末ころまで)とは一致していないのみならず、これら余罪は本件各窃盗事犯に比して、犯行の態様、手口、反復回数、被害額等の点で大きく異なり悪質重大なものであつて、これを考慮することにより処遇が決定的に異なるものと解されるので(現に検察官においても、前示3(1)(2)(3)の非行事実の送致に当つては保護観察相当の意見を付しているのに、その後の1及び2(1)(2)の非行事実のものについては、いずれも余罪捜査を完了した時点で意見を付するとして、処遇意見を留保している。)、原決定が前示余罪の立件或いは送致をまたず、これを本件非行の要保護性判断のための資料として用い、実質的に右未送致の数十件の余罪非行を審判の対象とするのと同様の処置をとつているのは、少年審判において非行事実がもつ機能を軽視し、不告不理の原則を潜脱するものであつて、相当ではない。(昭和49年度家庭裁判所事件の概況-少年事件一少年審判における余罪の取り扱い、家裁月報28巻2号50頁参照)

よつて、少年法33条2項、少年審判規則50条により原決定を取消し、本件を原裁判所である京都家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 石田登良夫 裁判官 白川清吉 白井万久)

抗告申立書〈省略〉

〔参照〕 原審(京都家 昭61(少)1217、2015、2116号 昭61.7.7決定)〈省略〉

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